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釧路地方裁判所 昭和28年(行)1号 判決

原告 酒井ミツ

被告 釧路市農業委員会

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、被告が(1)昭和二十七年三月十七日別紙第一目録記載の土地(以下第一土地という)につき樹立した農地買収計画(以下第一買収計画という)及び(2)同年八月二十一日別紙第二目録記載の土地(以下第二土地という)につき樹立した農地買収計画(以下第二買収計画という)はいずれもこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として、

第一、第一土地及び第二土地はいずれも原告の所有である。被告は昭和二十七年三月十七日第一土地につき自作農創設特別措置法(以下自創法という)第三条第一項第三号の規定により農地買収計画(第一買収計画)を樹立し、同日これを公告した。原告は同年三月二十六日被告に対し、右第一買収計画の対象となつている土地(第一土地)の一部に面積の誤認があること、宅地部分があるのにこれを農地の価格で買収する計画があること、農道部分があるのにこれをも買収する計画であることを理由に異議の申立をしたところ、被告は同年八月二十一日「右異議申立はこれを認容する。第一買収計画を第二買収計画に変更する。」旨決定し、該決定書は原告に送付された。かくして被告は同日第一買収計画を第二買収計画に変更する旨公告して第二買収計画を樹立した。

ところで原告は前記異議申立においては前記の如く第一買収計画の対象となつている土地の一部に瑕疵があるのでこの部分の取消を求め、被告はこれを認容して第一買収計画の一部(瑕疵のある部分)を取消したのであり第一買収計画中取消されなかつた部分(瑕疵のなかつた部分)は尚その効力を有している。

第二、原告は同年九月三日北海道農業委員会に対し前記異議申立に対する被告の決定を不服として訴願を提起したところ北海道農業委員会は昭和二十八年五月二十八日右訴願を却下し、該却下の裁決書は同年八月二十日原告に到達した。

第三、しかしながら前記第一買収計画中取消されなかつた部分(瑕疵のなかつた部分)と第二買収計画には左記違法があるのでいずれも取消さるべきである。

一、採草地及び宅地があるのに拘らず被告は単に自創法第三条の規定のみに基き買収計画を樹立した。しかしながら採草地及び宅地は同法第十五条の規定に基かなければ買収できないものであるからこの点において違法である。採草地は合計約三町七反、宅地は合計約二千八百四十一坪である。

二、第二土地の内(十六)ないし(十八)の各土地は原告の自作地である。これを小作地と誤認して樹立している買収計画は違法である。

被告の答弁に対し、被告は採草地及び宅地については自創法第十五条の規定に基き買収計画を樹立したと称するが同条所定の適法な附帯買収の申請がなくして樹立されたものであるから該買収計画は違法である。と述べた

(立証省略)

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、次の通り答弁した。

第一、本案前の抗弁

一、被告は後記第二の如く第一買収計画を全部取消(廃止を含む、以下単に全部取消という)したのであるから既に消滅に帰した第一買収計画の取消を求める原告の請求(1)は行政訴訟の目的となるものがないから行政訴訟提起の要件を欠き不適法として却下さるべきである。

二、原告は被告が第一買収計画を変更してこれとは別個に樹立した第二買収計画につき異議の申立及び訴願を経由しなければならないのにこれを経由していないから同計画の取消を求める原告の請求(2)は行政事件訴訟特例法第二条の訴願前置の要件を欠き不適法として却下さるべきである。

第二、本案に対する答弁

原告の主張事実中第一項は被告が第一買収計画の一部(瑕疵ある部分)を取消したとの点及び第一買収計画中取消されなかつた部分(瑕疵のなかつた部分)は尚その効力を有しているとの点は争う。その余の事実は争わない。被告は昭和二十七年八月二十一日第一買収計画を全部取消し、別個に自創法第三条第一項第三号及び第十五条の規定に基き第二買収計画を樹立し、その旨公告したのである。第二項は争わない。原告の訴願が却下されたのは第一買収計画は既に消滅に帰しているから消滅に帰した買収計画についての訴願は不適法であるという理由によるものである。第三項の内一、は被告が単に自創法第三条の規定のみに基き第二買収計画をも樹立したとの点及び採草地が約三町七反であるとの点は争う。その余の事実は争わない。被告は第一買収計画は自創法第三条の規定のみに基き樹立したが第二買収計画は採草地及び宅地について同法第十五条所定の附帯買収の申請に基きこれを相当と認め、その余の土地について同法第三条第一項第三号に基き樹立したものである。二、は争う。

(立証省略)

理由

一、先づ原告の請求(1)について判断する。

被告は第一買収計画を全部取消し、同計画は既に消滅に帰したからこれが取消を求める原告の請求(1)は不適法として却下さるべきであると主張し原告は第一買収計画に対する異議申立において同計画の瑕疵ある部分の取消を求め被告はこれを認容して瑕疵ある部分を取消したのであるから取消されなかつた部分即ち瑕疵のなかつた部分は尚その効力を有すると主張するから按ずるに被告において第一買収計画の瑕疵のなかつた部分を変更又は廃止することは何等妨げないところ、被告は原告の異議申立により第一買収計画を第二買収計画に変更する旨決定しその旨原告に通知し且つ公告したことは当事者間に争がないのであるから、かゝる場合には第一買収計画は瑕疵ある部分とそうでない部分とを問はず全部取消されたものと認むるを相当とする。そうすると第一買収計画は総て既に消滅に帰したものといわねばならない。してみると既に消滅に帰した第一買収計画の取消を求める原告の本訴請求(1)は行政訴訟提起の要件を欠き不適法として却下を免れない。

二、次に原告の請求(2)について判断する。

被告は原告が第二買収計画につき法定の異議申立、訴願を提起していないから同計画の取消を求める原告の本訴請求(2)は不適法として却下さるべきであると主張するから按ずるに、第二買収計画が第一買収計画を変更して樹立されたことは当事者間に争がない。そうすると第二買収計画は第一買収計画とは別個の買収計画であるから原告はこれに対し異議申立、訴願を経由しなければならない。しかるにこれを経由したことを認めるに足る証拠はないから第二買収計画に対しては行政事件訴訟特例法第二条所定の訴願前置の要件を欠くものといわねばならない。してみると第二買収計画の取消を求める原告の本訴請求(2)は訴願前置の要件を欠き不適法として却下を免れない。

以上判断した如くであるから爾余の点について判断を進めるまでもなく原告の本件訴は不適法として却下することとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 橋本金弥 有重保 惣福脇春雄)

(別紙省略)

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